ダークグノーシス~神々の黄昏~

僕が死んだときに遺書の代わりになります

【ことうみSS】クリアレイン

※諸注意

穂乃果が死んでる、ことうみ百合、ノンスマイル

 

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何日も振り続ける雨は、世界からあらゆる色を洗い流してしまったかのようであった。

空の果てまで広がる分厚い雲に街は覆われ、モノトーンに染まっていおり、道を行く人々はみな傘に隠れ、うつむき気味に何処かを早足で目指している。

 

街の外れに存在する墓地も、こんな雨が続く日に訪れる人間はいないようで、墓地を取り囲む木々は雨粒の重さに枝を垂らして沈黙し、等間隔に並んだ無機質な墓石たちは冷たい雨に打たれ続けていた。

その墓地に、黒い傘を差した少女「園田海未」がノイズじみた雨音に混じるように現れた。

黒のワンピースで身を隠した彼女は、湿った長い黒髪が目にかかっているのも気にせず、ゆっくりとぎこちなく夢遊病患者のように墓石の隙間をすり抜けていく。

そして彼女は”高坂家先祖代々之墓”と刻まれた墓の前で足を止めた。

その墓には、つい最近に備えられたと思われる9色で彩られた花束が添えられていた。

それは、今日の悪天候の中でもはっきりと輪郭を持ち、仄かに光を帯びているように感じられた。

園田海未は悲しみとも怒りともわからない無表情で墓石と向き合った。

 

「ほの……か……」

長い沈黙の後、彼女はその三文字を呟いた。

高坂穂乃果、2ヶ月前に事故で亡くなった彼女の幼馴染の名だ。

高坂穂乃果は真夏の太陽のような少女で、全てを勢いだけで輝かせてしまうような存在であった。

園田海未にとって、高坂穂乃果と一緒に見る世界は何でもないことだろうとキラキラと輝き、何処へだって飛び立てる、そんな奇跡を錯覚させてくれる存在であった。そんな彼女のことが大好きだった。

 

しかし、その錯覚を得る機会はもう失われてしまった。

 

「……ほのか…」

認めたくないとばかりにもう一度、過去に埋葬されたその名を小さく呟く。

しかしその声は、誰にも届くことなく雨に混じり足元の泥に溶けていった。

雨霧で曇る視界は銀幕に投影された偽物の光景のようで、傘の内に小さく収まる園田海未の孤独だけが本物であるということを強調していた。

彼女は傘の向こう側へと手を伸ばし、墓石を指でそっと撫でた。

指先には染みるような冷たい死の温度だけが残った。

 

雨音のノイズは終わることなく残響し続ける。

 

園田海未高坂穂乃果の墓を訪れたのは今日が初めてのことであった。

ここを訪れてしまったら最期、本当の意味で高坂穂乃果の死を認めなければならないようでずっと避けていた。

彼女の高坂穂乃果と過ごした10数年は間違いなく本物で、あまりにも輝いていた。そして、それを永遠だと信じてしまっていたくらいに園田海未は純粋であった。

そんな永遠の終わりを目の前の無機質な石塊如きが証明する、それが恐ろしかった。

「穂乃果……貴女に雨は似合いませんね……」

彼女は何かに祈るように、そして自分に言い聞かせるように高坂穂乃果の名を再度呟いた。

そして自分が濡れるのも構わず、自らの傘を穂乃果の墓石に被せ、墓石に向かって手を合わせた。 

「結局、私だけでは変わることも変えることもできなかった……私は今までずっとあなたに甘えていただけだった……」

雨に打たれながら、彼女はそう呟いた。

 

 

「海未ちゃん……来てくれたんだね………」

雨音の中から、聞こえるはずのない優しい声が聞こえた。

驚きに園田海未が振り返ると、この灰色の世界に不釣り合いな白と水色のカラフルな水玉模様の傘を差した少女が立っていた。

「ことり……」

意外な来客に園田海未は目を丸くして驚いた。

「このお花はね、μ’sをイメージして花陽ちゃんがアレンジしてくれたの」

南ことり園田海未の驚きに気づかない振りをして、かつてと同じように陽だまりのような優しい声色でそう語った。

「それと、雨の日に傘を差さないなんて風邪をひいちゃいますよ」

南ことりはそう言って半ば強引に園田海未の腕を引っ張り、自らの傘の内にすっかりずぶ濡れとなった園田海未を招き入れた。

「雨、止みそうにないね」

一向に黙ったままの園田海未の沈黙を誤魔化すかのように、南ことりは傘からはみ出た右肩を濡らしながら呟いた。

「ごめんなさい……」

「海未ちゃんが謝ることはないよ、それに相合傘ってちょっとドキドキするよね」

柔らかに南ことりは笑った。

「そうじゃないんです……この2ヶ月間ずっと私は…穂乃果のことから逃げてたんです………今までずっと追いかけてた穂乃果が追いつけない場所に行ってしまったというだけで穂乃果から逃げ出してしまった自分が情けなくて……きちんと穂乃果の死と向きあえていないことが許せなくて………」

すすり泣きながら園田海未はそう言った。

「海未ちゃん………。仕方ないよ……だって私たちはずっと一緒だったんだから……」

南ことりは白いバッグからハンドタオルを取り出し、園田海未の濡れた髪を撫でるように水滴を取り除いていくらら

「だからね、海未ちゃんが今日こうやって穂乃果ちゃんのところに戻ってきてくれて私は嬉しいの」

「それとね、穂乃果ちゃんが教えてくれたの『立ち止まってるだけじゃ見える景色は変わらない』って……海未ちゃんは今日最初の一歩を踏み出せた、だから全部が元通りとはいかなくてもまた昔みたいにキラキラした世界を見つけることが出来ると思うの……」

 南ことりは足元で跳ねる泥を目で追いながら淡々と、そう言葉を紡いだ。

「元通り…?穂乃果はもういないのに…!?」

園田海未は声を荒げた。

「まだ海未ちゃんと私は生きてる、それに他のμ'sのメンバーだって……」

今にも泣きそうな顔で南ことりが小さく笑った。

その瞬間に、園田海未は自分は何と卑しい人間なのかと内省した。

高坂穂乃果の死に傷ついているのは自分だけではない。各々が各々の方法で折り合いを付けようとしているのだ。

だというのに自分だけが答えを見つけられないまま、過去に縋って進めずにいる。

それを変えるために今日この場所を訪れたというのに、軽率で鋭利な言葉で未来に進もうとしている南ことりを傷つけてしまった。

「ごめんなさい……」

「大丈夫だよ…海未ちゃんは何も悪く無いよ……」

南ことり園田海未を抱きしめた。

園田海未は、南ことりは自己犠牲という残酷すぎる優しさを保有した人間であったということを思い出した。そして、自分はまたその優しさに溺れてしまうとしている。

またことりだけが全てを背負おうとしている、それだけは避けなければならない。

「こと…

「海未ちゃん……このままだと風邪を引いちゃうよ。一旦家に帰ろう?」

南ことりの言葉の方が早かった。

園田海未は改めて自分の姿を確認すると、頭から足先までびしょ濡れであった。

「……そうですね」

「……話したいこともお互い沢山あるでしょうから、まずは家に戻りましょう」

二人は穂乃果の眠る墓石に向かって手を合わせ、墓石に被せた傘はそのままに、二人は墓地を出て行った。

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図1:1 高坂穂乃果の墓前で佇むことうみ概念